積読を消化したい。

絶版を恐れるあまり、積読ばかりが増えてしまったので読書のモチベーションを上げるために開設しました。読んだ小説の感想を書いていきます。

『殺しの双曲線』西村京太郎 著 感想

西村京太郎さん著の「殺しの双曲線」を読みました。
アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」に挑戦した名作と聞いたため手を伸ばしたのがきっかけです。
クローズド・サークルの小説は多数あっても、本作のようなクローズド・サークルで「そして誰もいなくなった」の要素のある小説は実は少ない気がします。
私はそのような小説が好きなので大満足できました。


1979年に刊行された小説です。「そして誰もいなくなった」と「十角館の殺人」の間の作品といって良いと思います。
後の新本格ミステリを先取りした感やミスリードが印象的なミステリ小説でした。

宮城県K町の観雪荘という旅館から招待された7人と管理人の明らかに「そして誰もいなくなった」パートと東京で起きているの強盗の容疑者が一卵性双生児のためどちらが犯行しているのか特定できないため逮捕できず警察が双子を尾行するパートが交互に進んでいきます。
一見、無関係な2つの事件がどう絡んでいくのかが本作の面白いところでした。

 

本作は冒頭に「この推理小説のメイントリックは、双生児であることを利用したものです。」と宣言されています。
この冒頭から早くも双子が登場しミスリードを匂わせてくるところが巧みだと思いました。

旅館に招待された7人の共通点は発覚するのはかなり後半になってからです。
旅館の犠牲者の側に置かれる「かくして第○の復讐が行われた」と書かれたカードに描かれている「丸に斜めの線が入った交通標識のようなマーク」が犠牲者の共通点のヒントです。人によってはピンとこなかったりするらしいのですが私は甥っ子とプラレールで遊んだ知識で「丸は山手線かな?」と初見でピンときました(笑)

 

『早朝始発の殺風景』青崎有吾 著 ネタバレなし感想

青崎有吾さん著の「早朝始発の殺風景」を読みました。

高校生が主役の日常の謎系短編集です。
読み終わった後に気づいたのですがエピローグ以外は密室でやり取りしたいたようです。

「早朝始発の殺風景」
始発電車に乗った男子高校生が、女子のクラスメイトと遭遇しお互いの目的を牽制しながら推測する話。
「メロンソーダ・ファクトリー」
3人の女子高生がファミレスにてクラスTシャツのデザイン案2択で揉める話。
「夢の国には観覧車がない」
観覧車に乗った同じ部活の男子高校生の先輩と後輩の話。
捨て猫と兄弟喧嘩」
公園のレストハウスで別居中の兄妹が捨て猫をどうするか相談する話。
「三月四日、午後ニ時半の密室」
クラス委員は卒業式に休んだ生徒の自宅に卒業証書を持っていく話。
「エピローグ」

 

「メロンソーダ・ファクトリー」と「捨て猫と兄弟喧嘩」以外の話は顔と名前は知ってるけどそんなに仲良くない関係。作中に記されていないので私の勝手な解釈では別に不仲ではないけど連絡先は知らないかもという関係。
そのためお互いに踏み込みきれない距離感と緊張感での探り合いが面白かったです。

登場人物の高校生はみんな思いやりがあるため、爽やかな読後感があるように感じた反面、謎の中身が「判明」しても「解決」していない話もありました。
高校生ゆえのできることの限界をもどかしさも感じました。
思いやりのある登場人物ばかりなので結末を全部説明しない良さだとポジティブに捕らえています。

ちなみに私は学生時代に5つの話のようなシチュエーションに出くわした記憶はないです(笑)

『満潮に乗って』アガサ・クリスティー著 ネタバレなし感想 登場人物メモ

『満潮に乗って』アガサ・クリスティー著を読みました。
「亡き大富豪の遺産を独占する未亡人」「未亡人に遺産を独占され頼らざるをえない故大富豪の親戚」「登場人物の三角関係」「未亡人の過去を知る男の登場」「第2次世界対戦の影響」と横溝正史さんの『犬神家の一族』に影響を与えたと思われる要素の詰まったミステリ小説です。

事件が起きるのは半分近く読んでからですが、それまでは不穏な空気を読者に感じさせつつ登場人物の人間模様を丁寧に描き「誰が殺されるのか?」とスリリングさを感じさせるのはさすがクリスティーといったところ。

読み終えるとトリックよりもドラマを重視している作品だと思いました。
正直、ラストが駆け足に感じたこと、三角関係の決着にはモヤモヤしました。
比較的、知名度の低い作品のようですが、もっと多くの方に読まれてほしい小説です。

登場人物メモです。ネタバレは避けますが、個人的な印象も記載します。

ゴードン・クロード
大富豪。第二次大戦中の爆撃で死亡。

ロザリーン・クロード
ゴードンの未亡人。
ゴードンと結婚する前にロバート・アンダーヘイと結婚していたが死別。
クロード一族には教養はなくレディではないが人柄は良いと思われている。
戦争の影響か神経衰弱、今でいうPTSDのようになっている。

デイヴィッド・ハンター
ロザリーンの兄。
ロザリーンの資産を守っているためクロード一族からは嫌われている。
リンにちょっかいを出す。

リン・マーチモント
本作のヒロイン?
ローリィと婚約中。
戦時中は従軍していた。その経験で価値観が変わりローリィとすれ違い中。

アデラ・マーチモント
ゴードンの姉。リンの母。

ジャーミイ・クロード
ゴードンの兄。弁護士。
横領していて埋め合わせのための資金がほしい

フランセス・クロード
ジャーミイの妻。
肝が座っている印象。

ライオネル・クロード
ゴードンの弟。
医師

ケイシイ・クロード
ライオネルの妻。
霊界を信じている。

ポーター少佐
冒頭に登場。
その場にいない人の噂話が好き。総スカン。

ロバート・アンダーヘイ
故人。ロザリーンの前夫

イノック・アーデン
「ロバート・アンダーヘイは生きている。証拠はある」
と言いロザリーンとデイヴィッドに接触してくる。

 

『invert 城塚翡翠倒叙集』『invertⅡ 覗き窓の死角』相沢沙呼 著 ネタバレなし感想

相沢沙呼さん著の「invert 城塚翡翠倒叙集」と「invertⅡ 覗き窓の死角」を読みました。2作とも倒叙ミステリです。
前作「medium 霊媒探偵城塚翡翠 」はド派手に終わった小説だったため続編はどうなるのか期待と不安を抱きながら読みました。

 

invert 城塚翡翠倒叙
「雲上の晴れ間」
「泡沫の審判」
「信用ならない目撃者」の2編です。


「雲上の晴れ間」の容疑者は城塚の容姿やあざとさにメロメロで自分が疑われていると考えず、城塚と仲良くなりたいがために喋りすぎて墓穴を掘っていった印象です。倒叙ミステリは犯人と探偵の知恵比べを期待していたので正直「温いなぁ」という印象を受けました。まぁ、掴みはOKという感じでしょうか。

「泡沫の審判」
の容疑者は城津に対して第一印象こそ悪かったものの、同僚としての仕事ぶりは評価するという大人の対応をしています。自分に容疑が掛けられていると察すると対決ムードにはなりますが、あくまでも大人の対応で距離を置こうとします。

この2編の容疑者は計画的な殺人を犯しましたが、基本的には善良な人物で緊張感がなく読み進めてしまい温い印象を受けました。

「信用ならない目撃者」の容疑者は前2編とは打って変わって、隠れて悪事を行っている悪人で、諸事情により城塚は霊媒探偵だと知っているため初対面から警戒心を持って城塚に接します。そのため城塚と犯人が二人きりの時の緊張感は読む前に期待していたものでした。事件の解決も大胆で本著のハイライトだと思います。

 

invertⅡ 覗き窓の死角

「生者の言伝」
「覗き窓の死角」の2編です。

「生者の言伝」の容疑者は不法侵入し殺人を犯した別荘にキレイなお姉さんが二人きて有頂天という状態です。城塚にメロメロな容疑者は「雲上の晴れ間」と同じなためデジャヴというか振り出しに戻った感じがちょっといただけなかったです。
緊張感がなくコミカルに話は進み低いテンションで読んでいたためラストにOhとなりました。掴みはOK
ネタバレになるかもしれない箇所ですごく個人的に疑問な点があり、一応伏せ字
城塚が124ページにて「リラックスできる空間において、靴下を穿き続ける人間は珍しいです」と言っていますが、そうなんですか?自分は猛暑以外は起床してから風呂に入るまで穿いたままかもしれません。マナー違反とかだったらヤダなぁ。
すぐに「雨の日の帰宅~」とフォローがあるので推理として文句はないです。

 

「覗き窓の死角」は城塚と友人関係になった女性が容疑者です。
容疑者はミステリ小説好きということで用意周到に計画を練り、死亡推定時刻には城塚と共に居たというアリバイを作ります。友人を疑ってしまった良いのか?というのが序盤のテーマです。ミステリ小説として普通に楽しめたのですが全体的に城塚の人物描写が多すぎる印象を受けました。

「invert」「invert Ⅱ」と短い期間に読んだため「invert Ⅱ」の2編とも城塚の人物描写が多くキャラクター小説としての色を濃く感じました。
人物描写を削ってもう1編読みたかったのが正直な感想です。
「一年ぶりの新作!」として読むとどういった感想になっていたかが気になります。

 

マツリカシリーズはホップステップジャンプしていたのですが、本シリーズは緩やかに落ちているのが素直な感想。短編同士のつながりがあったりしたら良かったです。

『体育館の殺人』青崎有吾 著 ネタバレなし

青崎有吾さん著「体育館の殺人」を読みました。

第22回鮎川哲也賞の受賞作品です。
受賞後に作者の青崎有吾さんは「平成のエラリー・クイーン」と呼ばれるようになったのも納得のクイーンっぽい丁寧な推理小説です。

本作の事件は、雨の中の体育館で、普段は降りていない幕の中という目撃者の限られた密室状態の中で起こります。そして体育館の男子トイレに残された黒い男性用の傘の謎を解き明かす話です。

ページの多くを関係者の取り調べや証拠品探しに割いていて、主人公といった主要人物以外の登場人物に関しては人間関係や心理描写は極力省いている印象です。
私はクイーンの小説はXの悲劇とYの悲劇、国名シリーズの最初の3作品を読んだ程度なので、語れるほどではないのですが、このあたりもクイーンみたいだなと思いました。

キャラが濃い人物は少ないのですが、探偵役の裏染天馬はいわゆるアニメヲタクで性格や態度が少し独特なため気になる方もいるらしいです。
しかし、思い返すと私の知っている探偵役は独特な絡みづらそうな方が多いのでそんなに気にならなかったです。
文章も平易でライトすぎないと思いす。

近年の推理小説と比べ、派手さはあまりありませんが、とにかく丁寧に書かれた推理小説だと思います。

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』青柳碧人 著 ネタバレなし感想

青柳碧人さん著『むかしむかしあるところに、死体がありました。』を読みました。

 

表紙やタイトルでネタ感やトンデモ感が強く。                  SNSで普段はミステリー小説を読まない方にも話題だったため「どんでん返しかな?」と先入観を持って読んだのですがしっかりした短編推理小説でした。
本作は昔話という多くの方がなんとなく知っているという共通認識をゴリ押して無駄を省いて読みやすくなっていてよくできているなと思いました。

 

全5編。物語としての結末は後味が悪いともブラックユーモアとも捉えることができます。私はスッキリした後味にはなりませんでした。(推理のモヤモヤという意味ではないです。)

 

昔話をコント等でブラックにパロディにしたりツッコミをするのは漫画やコント等で見覚えがあり。陣内智則さんやバカリズムさんがやってそうですが、推理小説は珍しいのではないでしようか。                                     小林泰三さんの「アリス殺し」は現実と夢の中の童話の世界の行き来なので少し違ってこちらの作品はずっと昔話の世界が舞台のため説明もなく帰り道に鬼がでてきたり、あまり戸惑わずに助けた亀に連れられて竜宮城に行ったりします。
設定の解説や世界の謎を解き明かそうとしないためサクっと読めました。

 

「つるの倒叙がえし」と「絶海の鬼ヶ島」が本作の中でも秀逸だと思います。

『未来からの脱出』小林泰三 ネタバレなし感想

小林泰三さん著の『未来からの脱出』を読みました。

 

あらすじ

ここは監獄だ。
さあ、脱出ゲームを始めよう――。

サブロウは森に囲まれた老人ホームらしき施設で、平穏な日々を送っていたが、
自分は何者でいつ入所したのか、そもそもこの施設は何なのか、全く記憶がないことに気づく。
不審に思っていると、謎の「協力者」からのメッセージが見つかった。

「ここは監獄だ。逃げるためのヒントはあちこちにある。ピースを集めよ」

サブロウは情報収集担当のエリザ、戦略策定担当のドック、技術・メカ担当のミッチという仲間を集め、施設脱出計画を立ち上げるが……!?

想像を超える「未来」の真相に辿り着けるか?
楽園(サンクチュアリ)から逃れ、本物の自由を手に入れろ。

Amazonの単行本の商品ページより引用

 

購入時に脱出ゲームの本にちょっとハマっていたり、何十年ぶりにCUBEの1作目を見た自分は自然に手を伸びた小説です。

あらすじに『さあ、脱出ゲームを始めよう――』とありますが、「ゲーム」「ミステリー」の要素は少なかったです。

世界観を楽しむSFとディストピアの色が濃い作品でした。

 

舞台は老人ホームや病院のような施設でメインの登場人物達は自分がなぜ、どのようにこの施設にいるのかわからない状態です。

そんな中、主人公のサブロウは自室で誰かが残した暗号メモを見つけたところから話は進んでいきます。

全3章のうち1章でとりあえず脱走は成功します。

2章からは世界の真実が明かされていき、アンドロイドやAI、「ロボット三原則」といった単語が現れる。SF、ディストピアの要素が強くなっていきます。

 

色んな要素を詰め込んだ小説なため、掘り下げるとページ数が膨れて上下巻になっても良さそうですが、ページ数は300ページと少ないなかできれいにまとまっている小説だと思いました。