積読を消化したい。

絶版を恐れるあまり、積読ばかりが増えてしまったので読書のモチベーションを上げるために開設しました。読んだ小説の感想を書いていきます。

『幻燈辻馬車』山田風太郎

山田風太郎さんの「幻燈辻馬車」を読みました。
自由民権運動が起きている明治15年が舞台です。

西南戦争で息子を亡くした元会津藩干潟千兵衛が孫お雛と一緒に辻馬車稼業をしながら、亡き妻の仇とお雛の母親を探す話です。
そんな二人の辻馬車に乗せた客をきっかけに自由党壮士とのイザコザに巻き込まれていきます。

お雛に危機が迫り「父(とと)」と呼ぶと西南戦争で戦士した干潟蔵太郎が幽霊として現れるというギミックもあります。
さらに蔵太郎が呼ぶと千兵衛の亡き妻お宵の幽霊が現れます。

本作は「警視庁草紙」と同じく明治時代を舞台にし実在の人物や史実を混ぜた連作短編小説ですが、上記の幽霊が現れるというアイデアを使い「警視庁草紙」にはなかった忍法帖のような外連味を出しています。

「警視庁草紙」との比較になってしまいますが、登場人物を減らしスッキリした印象になっています。
自由党に潜り込んだ密偵が誰か?お雛の母親は?亡き妻お宵の仇は誰か?という謎解きはありますが「警視庁草紙」以上に推理小説要素は減っています。
読み心地は明治を舞台にした忍法帖シリーズだと感じました。

『警視庁草紙』山田風太郎

山田風太郎さんの「警視庁草紙」を読みました。
西南戦争前の明治時代を舞台にした連作短編小説です。

本作はミステリー小説にジャンル分けされそうですが、忍法帖シリーズのようにいかに相手を出し抜くかを楽しむ小説だと思いました。

町奉行の隅老齋と旧幕臣の千羽兵四郎が主人公で、警視庁大警視・川路利良らが大事件をめぐり水面下で対決する伝記小説です。
明治維新後に生活が変わり苦しい立場になった人が作品のテーマだと思います。

隅老齋と千羽兵四郎は現政権に対して転覆を狙うような大きなことをするつもりはなく、あくまで「ちょっかい」程度のつもりが助けた人物たちの事情で警視庁から危険視されていきます。

序盤は軽い読み心地ですが上巻の後半になると旧幕勢の企みや明治政府の一枚板ではない派閥争いの色が強くなっていきます。
下巻になると連作短編の色が強くなり過去の短編に登場した人物が再登場することが多くなるためメモりながら読めばよかったです。

実在の人物が非常に多く登場します。
恐らく現在では知名度抜群な藤田五郎斎藤一)が前面に出てこないのが興味深いです。

 

『そして扉が閉ざされた』岡嶋二人

岡嶋二人さんの「そして扉が閉ざされた」を読みました。

睡眠薬で眠らされ地下の核シェルターらしき場所に閉じ込められた男女4人が過去の事件の真相を推理する話です。

ページ数と内容がちょうど良く。ロジックや伏線が丁寧で意外な真相もあり間違いなく傑作のミステリ小説だと感じました。

登場人物は閉じ込められていますが、いわゆるクローズドサークルのミステリ要素や映画のCUBEのような脱出謎解き要素は薄いです。
あくまで過去の事件の回想と4人のよるブレインストーミングが中心です。

読書メーターで他の方の感想を読むと「登場人物たちの性格が悪く共感できない」という意見がありますが、閉じ込められた状態で過去の事件の犯人や閉じ込めた人物の共犯者がいるかもしれないという疑心暗鬼な心理状態なので嫌な部分がでるのもしょうがないと私は思いました。

 

『妖異金瓶梅』山田風太郎

山田風太郎さんの「妖異金瓶梅」を読みました。
中国の四大奇書金瓶梅」をモチーフにした短編ミステリ集です。

・1950年代に刊行された小説
・中国の古典が舞台
・栄の時代の好色漢と、その妻と七人の妾に関わる怪事件
・エログロ要素がある
・レジに持って行きにくい表紙

と読みにくそうな印象を受けますが、近年の日常の謎系のライトミステリのような読み心地で登場人物などが覚えにくい以外は読みやすかったです。
エログロ要素はありますが江戸川乱歩とは違ういつもの山田風太郎です(笑)
金瓶梅」を知らなくても楽しめました。

本作は15+ボーナストラックの短編集です。
1950年代のミステリにしてはメタが利いている印象を受けました。

連載された短編を集めたものなので仕方がない部分がありますが、推理のある部分がワンパターンになってしまい飽きてしまうかもしれません。
しかし終盤の編になると怒涛の展開が起こります。
挫折しそうになっても日にちを開けたりして読破してほしい小説です。

 

『人形はなぜ殺される』高木彬光

本作「人形はなぜ殺される」は「りら荘殺人事件」「獄門島」と並ぶ日本古典推理小説の名作という噂に間違いのない傑作でした。
「顔のない死体」「見立て」「アリバイ」等、様々な要素のある推理小説です。

 

「日本三大名探偵」の一人である神津恭介の推理小説を初めて読みました。
1955年の小説と70年近く前の推理小説です。
時代背景のギャップはありますが、文章は読みにくいとは感じませんでした。
三人称の作者の地の文が「この後、あのような凄惨な事件が起こるときは誰も知るよしがなかった」(意訳)のような熱く仰々しいのはご愛嬌。

 

本作は神津恭介が最も苦戦した事件の一つのため、神津恭介の天才名探偵っぷりは味わえなかったのが残念。
高木氏の他の小説も読みたくなりましたが絶版が多く、本作に負けず劣らず面白いらしい「刺青殺人事件」はネタバレを喰らっているため時間を置いてから読もうかな。

『ねじれた家』アガサ・クリスティー 

アガサ・クリスティー著「ねじれた家」を読みました。
とある有名作 伏せ字「  Yの悲劇       」に似ていると聞き、その作品を最近になって読んだので、本作を読んでみました。

資産家が被害者ですが、家族で遺産相続で揉めてるようでもない。
また人柄も良く強く恨まれる動機がなさそう。
その家族も変わっているといえば変わっていますが、あくまで個性の範囲を出ず、主人公に友好的に接してくるため、今まで読んできた推理小説と比べ違和感を感じました。
クリスティーの狙いだと思うのですが、おなじみの展開からのねじれを出した小説にしたかったのでしょう。

「毒殺したのは誰なのか」「署名したはずなのに署名が消えた遺言状」が大きな謎で中盤までは牧歌的に緩やかに話は進んでいきます。
中盤からは事件は二転三転し面白くなっていきます。

またノンシリーズなため誰が事件を解決するのか?
2度はないと思うが、語り手はどこまで信用できるのか?
という緊張感があったのが良かったです。

前述の有名作と比べてしまう先入観で読んでしまったため、ニュートラルに読んでみたかった小説でした。

館シリーズオマージュ『硝子の塔の殺人』知念実希人 著 ネタバレあり感想

知念実希人さん著の「硝子の塔の殺人」を読みました。
館シリーズ」リスペクトな作品で面白そうだったので手を伸ばしました。

感想を先に述べると、読んでいる時のリーダビリティは凄かったのですが、オマージュとメタミステリが強すぎて「他人のふんどし」感が強かったです。
本格ミステリ」ではなく「メタミステリ」「バカミス」だと思いました。

 

雪山の奥に建造された「硝子館」が舞台です。
その家主の神津島太郎はノーベル賞候補にもなるほど医学で成功している人物。
また大のミステリマニアで「硝子館」も綾辻行人さんの「館シリーズ」にインスパイアされ建てました。
そして「ある発表がある」と言い、硝子館に知り合いを集めました。


登場人物の多くはミステリマニアで古今東西のミステリ作家、ミステリ小説の名前が登場します。
登場人物同士のミステリ談義でクリスティ、カー、クイーンといった古典から新本格に関わる島田荘司さん、綾辻行人さん、近年では「屍人荘の殺人」の名前まで出てきます。
本作で挙げられた作家、小説は多く挙げたらきりがないので割愛したいです。

他作品のネタバレ
辻真先さんの「仮題・中学殺人事件」「9枚の挑戦状」
深水黎一郎さんの「最後のトリック」
森博嗣さんの「すべてはFになる」
のネタベレがあったのでこれらの作品を未読の方は注意です。


綾辻行人さんの「館シリーズ」のオマージュが非常に強く、読む前に「十角館の殺人」だけでも良いので読んだほうが良いと思います。

 

ここからネタバレで不満だったことを書きます。伏せ字です。

神津島太郎の発表とは硝子館を舞台にした、自分が書いたミステリ小説「硝子館の殺人」を実際に行ってみるというものでした。
作中作を実際にするという、そのこと自体はプロットとして良いのですが、神津島太郎のミステリ小説は作中の登場人物から「オリジナリティがまったくなければ文章力も皆無」「どこかで見たシチュエーション。どこかで見た名探偵。どこかで見たトリック」等、酷評されています。
「じゃあそのボロクソな作中作を元にした事件を300ページぐらい読んでた読者(私)はいったいなんなんだ…」と正直思いました。
上記の酷評が知念さんの言い訳や逃げに感じてしまいました。
神津島太郎は作中で「綾辻行人になりたかった。」と言っています。
それは知念実希人さんの言葉でもあるんでしょうか?
そんな作中作に対して卑下たことを言わずに、館シリーズの11作目に割り込めるぐらい自身のある作中作で勝負してほしかったです。

 

不満だったことが多いですがリーダビリティは凄かったです。
熱中して楽しく読んだゆえの不満点です。
次はメタなしのストレートな本格ミステリを書いて欲しいです。