『鏡は横にひび割れて』アガサ・クリスティー
アガサ・クリスティー著「鏡は横にひび割れて」を読みました。
本作はホワイダニットの傑作でしょう。
トリックなどで本作より優れている作品は数多あるでしょうが、そんなことはどうでも良くなる威力がある一冊です。
ミス・マープルシリーズらしくどこかゆったりとしている一冊なのですが真相に気づいたときには動悸が早くなりページをめくるのが止まらなくなりました。
本作は色々あって他の超有名作品のようにネタバレされまくっている一冊になってしまいました。私は幸いにも避けることができたか目に入っても忘れられたのが幸いです。
迂闊にXなどのSNSやGoogleで検索しないことをオススメします。
「書斎の死体」の現場でもあったゴシントン・ホールに映画女優マリーナ・グレッグとその夫ジェースン・ラッドが引っ越してきて、そのお祝いと野戦病院協会絡みのチャリティーを兼ねたパーティーがゴシントン・ホールで行われる。
パーティーでマリーナの側にいた野戦病院協会幹事のヘザー・バドコックが毒殺される。被害者は殺されるほどの恨みを買うような人ではないと思っているなかマリーナや関係者の証言でマリーナを狙った毒をヘザーが食らったのではとい疑惑が浮かぶ…
というのが本作の冒頭のあらすじです。
本作のミステリーとしての謎は
・犯人はマリーナとヘザーどちらを狙ったのか?
・マリーナとヘザーが会話している時にマリーナが呆気にとられるとも何かに気づいて冷たい表情とかでは表現できない表情をしていたのは何だったのか?
の2本柱になっています。
被害者の人柄が
「すごく親切で周りの面倒見も良い人ですよ…ただうるさいというか…デリカシーがないというか自己中心的だけど自分の話ばかりで他人に迷惑をかけるほどでもないんだけど……いえ別に嫌いじゃないです!」(意訳です)
というキャラ付けが絶妙で読者の多くの方が実生活で接したことがあるどこかの誰かを思い浮かべそうなのが面白く絶妙です。
本作はネタバレの被害に会う前に読んでもらいたいのですが、シリーズ一見さんお断りな一面があります。
「書斎の死体」にも登場した「ゴシントン・ホール」が舞台なため本作は過去作を読んだ方向けな小説だと感じました。
「書斎の死体」未読の方には微ネタバレのため伏せ字
作中でゴシントン・ホールのことを「殺人事件のあった邸」と言われかつての住人のバントリー夫人が「死体はあったけど殺人事件は起きていない。殺人があったのは別の場所!」と返答したシーンはニヤリとしました。
本作は変わりゆくセント・メアリ・ミードが裏テーマのためかミス・マープルの日常に大きくページ数を割いています。
個人的には超有能だと思う「予告殺人」「パディントン発4時50分」にも登場したダーモット・クラドックは主任警部へと出世。職場では気を張っているのかミス・マープルと会うと少し愚痴や弱音を吐くところも味がでています。
決して悪い人ではないものの過干渉なところがミス・マープルと反りが合わない介添人ミス・ナイトとのやり取りなど日常シーンが面白いのですがシリーズ初見の方には冗長で不要に感じるかもしれません。